2. リスク対策とマネジメントシステム①

 事故例をもとにお話しします。

【車椅子の転倒】

 7月15日午前11時30分頃、○階の入所利用者Aさん(男性:82歳)が、売店に行くために介護職員Bに車椅子を押してもらい移動している時の出来事であった。
 売店に向かう廊下を移動中、向いから来た配膳車をよけようと介護職員Bが、押している車椅子の進路を左側に変えようとし、車椅子が廊下左側に置いてあった観葉植物の鉢に当たりそうになり急に止まろうとして、利用者が車椅子からずり落ちた。
 幸い、骨折には至らなかったが、尻もちをついたときに腰を打ち、右手首を痛めた模様。

 その後の調べで、次のことが確認された。

  1. 車椅子のブレーキの効きが甘かった。
  2. 転倒した場所は、廊下を曲がってすぐの建物をつなぐ渡り廊下で、路面がコンクリートになっているところであった。
  3. 介護職員Bは、4月に採用された新入職員。
  4. 利用者Aさんは、右片麻痺あり。

 これまでのステップに沿って、対策の立案から対策のマネジメントシステムとしての定着化を考えますと、上記の事故例はすでに事故として発生してしまったものなので、リスクの「発見」のステップは該当しません。「状況の把握」については事故例の内容に書いてあるとおりです。
 次に、上記例の「原因分析」ですが、多角的・多層的分析例は以下のとおりです。

多角的分析と多層的分析

多角的
多層的(なぜ→なぜ)
人(利用者)
MAN
車椅子からずり落ちた
→利用者の姿勢が悪かった
→右片麻痺があった
人(介助者)
MAN
急に止まろうとした
→鉢に当たりそうになった
→向いからきた配膳車をよけようとした
→配膳車にぶつかりそうになった
→廊下で配膳車とすれ違うときに止まらなかった
→すれ違いにくいところで一方が止まることをしなかった
①すれ違う時に一方が止まることがルール化されていなかった
②すれ違う時に一方が止まるルールを守らなかった
→ルールを知らなかった
→ルールが教育されていなかった
①ルールを教育するマニュアルがなかった
②4月入職の職員であるため7月時点で教育を受けていなかった
注意
MIND
急いでいたので注意して止まることを怠った
→①昼食時間までの短い時間に売店に行かなければならなかった
→早めに利用者の希望を捉えていなかった
→②急ぐと危険だという意識がなかった
→経験がなかった
もの(車椅子)
MACHINE
ブレーキの効きが甘かった
→ブレーキの効きの甘い車椅子を使った
→車椅子のブレーキの点検をしなかった
→ブレーキの点検がルール化されていなかった
→ルールはあったが効き具合の判断基準がなかった
環境
ENVIRONMENT
観葉植物が邪魔になった
→①配膳車が通る廊下に観葉植物を置いていた
→②鉢や植物の葉が廊下に出ていた
→③置く場所が適切でなかった
→適切な置き場所があらかじめ決められていなかった
方法・やり方
METHOD
麻痺のある人の姿勢を保っていなかった
→クッションなどを使って傾きを支えていなかった
→麻痺のある人の姿勢を保つ方法を知らなかった
→麻痺のある人の姿勢の保ち方を事前に教わっていなかった
ブレーキを急にかけた
→急に止まろうとした
→早めから止まらなかった
→危ない箇所や状態を知らなかった
→教えてもらっていなかった

*これは実際のケーススタディで出された回答です。したがって多層的分析の仕方が必ずしも正しいものばかりではありませんが、概ね「なぜ→なぜ・・・」を追求したものになっています。

 このように個別の事故事案を例に、発生した原因をいくつかの角度から見て、また、それぞれを、なぜそうなったかを深堀りしていきますと、多くの要因が取り出せます。
 この例でも6つの角度から約40近いものが出されています。また、データが数多く取られている場合には、層別をしたり、層別をしたものの相関関係を見たり、重点志向で的を絞り込んで原因分析を行ないます。そしてこの分析結果をもとに「対策の評価」をすることになります。
 この例では、「対策の評価」の結果選び出された「対策」は3つ出されました。
 ひとつは『新入職員の研修実施』、ふたつめが『すれ違い時のルール作成』、そして3番めとして『廊下のものの置き方の改善』となりました。
 これは対策評価の項で述べました、即時性、効果性、実現可能性、全体最適性、定着可能性の5つから評価されたものです。
 さて、これらの対策はマネジメントシステムとして組織の仕事のなかに定着し、継続的に改善されていくことにはどのように結びつけていけばよいのでしょうか。
 以下の7つのマネジメントシステムに結びつけて考えてみます。

  1. 対策の効果目標の設定、達成状況の把握、見直し、改善
  2. 対策計画に含める要素
    • 必要な資源
    • 責任者
    • 計画の承認
    • 監視の基準
    • 必要事項の明確化
    • 妥当性の確認
    • 変更の管理
    • 記録
  3. 教育訓練の計画(どのような教育が必要か)、実施後の評価、記録
  4. 設備の管理方法
  5. データの分析
  6. 監視の方法
  7. 監視の結果の不具合への対処と再発防止
7つのマネジメントシステム
7つのマネジメントシステム

目次

介護事故と苦情をマネジメントする(第2回)

  1. 対策立案の考え方
  2. リスク対策とマネジメントシステム①
  3. リスク対策とマネジメントシステム②
  4. リスク対策とマネジメントシステム③
  5. 対策立案

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