3. リスク対策とマネジメントシステム②

1.対策の効果目標の設定、達成状況の把握、見直し、改善

 立てた対策の最終目標は、同種の事故の再発防止であることは言うまでもありません。 これは、対策の効果確認として期間を定めて行なう必要があります。 もうひとつは、対策自体の到達目標を立て、達成状況の把握をしなければなりません。

 前述の事故例で言えば、①『新入職員の車椅子移動における注意点の研修実施』や、②『すれ違い時のルール作成』、③『廊下の置き物の安全性の改善』という3つの対策のそれぞれに、到達目標を立て、達成状況の把握をするということが確立されなければマネジメントシステムに則ったやり方とは言えません。

 対策は、計画性を持って継続的に改善されていくものにならなくてはいけないからです。①については、“どういうことを”、“誰を対象に”、“いつまでの間に”、“どの程度の習熟度合いで”という目標のもとに、それぞれが実施された状況を客観的にとらえられる(例えば、記録に残す)状態になれば目標設定と達成状況が把握されることになります。

 ②についても同様です。すれ違い時のルールとしては、“どのような状況下のものを”、“どんな注意点について”、“どのようなルール表現で(言葉or図示等)”、“何のかたちで(作業手順書or規定類)”、“いつまでに完成させ、周知する”などを目標として明確にし、実施できたかどうかを把握することが必要です。

 達成状況の把握で問題になるのは、③のように“・・・の改善”とした場合、それが改善されたのかどうかは基準が曖昧になります。そこで、出来上がり図のようなものを作成し、このようになったら、という客観的な明確さが必要です。

 ですから、教育にしても決して「新入職員の移動技術の徹底とか充実とか向上」という表現は避けなければなりません。徹底とか充実とか向上は、出来たとも出来ていないとも言える曖昧なものです。
 具体的に“3時間の○○研修を新入職員全員が3ヶ月以内に受講済みとなる”とういうように目標が設定されていれば、達成状況も“○人が未終了”というように具体的に把握できます。
 このようなやり方をすることで、研修計画に無理があったかどうかや再発防止の研修として3時間の研修が不足であったのかなどの見直しがされることになります。

 これが、タイトルの「対策の効果目標の設定、達成状況の把握、見直し、改善」につながるマネジメントシステム化です。

2.対策計画に含める要素

 対策を計画する場合には、次の要素を明確にしてください。

必要な資源は何か
 対策の具現化のためには、各種の資源が必要になります。これを明確に描いておかないと実現可能性が見通せません。
 例で言えば、新入職員を教育する人は確保できるのか、教える場所はあるのか、すれ違い時のマニュアル作成に必要な紙、パソコン、コピー機は用意できるのか、等々です。
責任者・承認者などの明確化
 この対策計画や計画を実施する場合の責任者は誰なのか、計画について承認する人は誰なのかが決まっていなければなりません。せっかくの対策が実施されようとした段階や実施してから、“誰の許可を得てそのようなことをしているのか”とか、“私はそれは知りません”というようなことが起こりかねません。
監視の基準
 事故や苦情の再発防止のためにとられた対策は、効果や結果を監視しなければなりません。先の例で言えば、新入職員に対する車椅子移動の教育は、まず、実施の有無・参加人数・教育の評価結果などの状況が監視の対象になります。次に監視の対象について合否の判定基準を決めます。予定通りの実施、○人以上の参加、評価平均が5段階評価の4以上、等を「合」とする、などです。この基準を設けるのは、教育を実施しても事故の再発が防げなかった場合に基準自体を見直すというPDCAのCからAにつなげるためです。
対策 監視項目 合否判定基準
新入職員の車椅子移動教育
  • 実施の有無
  • 参加人数
  • 教育効果の評価
  • 実施済み
  • ○人以上
  • 5段階評価の平均4.0以上
すれ違い時のルール作成
  • 完成時期
  • ルールの読みやすさ
  • ○ヶ月以内
  • 使用者の評価3段階で2以上
廊下の置物の安全性の改善
  • 廊下の障害度合い
  • 置物を含めた廊下の幅員○m以上
必要事項の明確化(どのようにしたいのか)
 事故の再発防止を図るのが第一の目的ですが、そのために立てた対策自体がどうあるべきかをはっきりさせなくてはなりません。
 例で言えば「新入職員に車椅子での移動が安全にできるように教育することを確実に実施して身につけてもらうこと」とか「すれ違い時のマニュアルを使えるもの、わかりやすいもので作成する」といったその対策自体に求められる条件を明確にすることです。
妥当性の確認
 妥当性の確認とは、対策立案の各段階でいろいろな立場の人が関わって“それで大丈夫か?&rdauo;ということを予め見極めることです。
 これは、実現の可能性や全体最適性にとって大変重要な機能です。介護職員にとっては良策であっても看護職員には問題があるとか職員の立場でみればベストであっても、管理者からみれば良いとは言えないケースが往々にしてあります。この機能は、上記の「責任者・承認者などの明確化」の機能と併せて果たされます。
変更の管理
 対策の立案過程で対策内容に変更が生じることは多々あります。
 このときに注意しなくてはならないのは、変わった部分だけを変えて済ますのではなく、立案の過程で必要とされた要素(必要な資源、監視の基準、妥当性の確認等)のすべてについて再度見直すことが大切です。
 例をあげてわかりやすく説明しましょう。
 「新入職員の車椅子移動の研修」に新入職員以外の希望者も入れるという変更をしたとします。このとき実施時期や参加人数、監視の基準である評価基準についても見直しをして対策計画を作らないと、実施ができない、評価基準が甘いなどの当初の計画とは違う問題が出てくるなどがその例です。これを「変更の管理」と言います。
記録
 計画の中で何を記録として把握するか、また、残すか、ということを決めておかないと、対策の進捗や評価ができなくなります。その中でも特に重要なのは、監視の結果の記録です。これを使って対策の効果確認をします。このほかにも、計画段階での妥当性確認を行なった記録や、変更をどのように管理したかの記録も残さなければなりません。前者は対策の内容自体の記録であり、後者は対策立案計画の記録です。
対策計画に含める要素

目次

介護事故と苦情をマネジメントする(第2回)

  1. 対策立案の考え方
  2. リスク対策とマネジメントシステム①
  3. リスク対策とマネジメントシステム②
  4. リスク対策とマネジメントシステム③
  5. 対策立案

執筆者プロフィール

トップヘ