4. リスク対策とマネジメントシステム③
3.教育・訓練の計画(どのような教育が必要か)、実施後の評価、記録
介護事故の多くが、4大介助と言われる食事・排泄・入浴・移動移乗の介助時に起こっていることから、介護職員の介助技術や知識不足が事故発生の直接的な原因であることが多いと言えます。ただ、多くの事故報告書の対策欄を見ると、『関わった職員の○○の技術が不足していたので、当人に対し、再教育を実施した』といった記載がよく見られます。
これをもう少しマネジメントシステム的なものにするには、
①教育ニーズとその到達レベルが明確化され
②対象者
③実施時期
④指導者
⑤使用教材
⑥評価方法
が計画され、実施後には教育訓練の効果確認と、教育研修自体の評価がされなければなりません。
なぜ、その職員が技術不足を原因とした事故を起こしたのかを考えると、例えば、まだ採用後1~2か月の段階で、わずかに半年先輩の職員がさしたる教材もなしに、やり方を説明する程度の教育をし、十分に行えるようになったかどうかも評価せずに仕事をさせたとすれば前記した①~⑥の状況とは程遠いと言えます。
教育・訓練は、一律的なニーズに対するものではなく、「どのような対象(経験年数、職種、立場)」に、「どのような技術や知識の内容」が、「必要とされるレベルに対してどの程度不足している」か、に対して計画されなくてはなりません。介護事故の発生原因が教育・訓練不足であった場合、対策として計画される教育・訓練の対象、内容および求められる到達レベルは、介護事故の発生に関する情報がインプット情報となります。教育・訓練プロセスのPDCAサイクルを、介護事故からのインプット情報をCとしてA→P→Dと廻すことができます。
4.設備の管理方法
次に、介護サービスに使用している設備・器具が介護事故発生の原因となっている場合に、これをマネジメントシステムとして再発防止を図るには次の点をおさえてください。
まず、介護事故に結びつく対象(設備・器具)を特定すること、特定した対象が介護サービスに供される場合に求められる事項(安全性や確実性、正確性など)を満たす条件を明確にすること、それを維持・管理する方法(点検・監視等)と基準(頻度、合否判定基準)を決めること、更に、すべての対策に共通ですが、実施の記録と効果の確認を行うことです。
ベッド脇に置かれたセンサーマットが機能しなかったために転倒の発見が遅れた事故を例に説明します。センサーマットが機能しなかったのは、「電源コードのプラグが外れていたため」として原因が特定されました。対策は、『電源コードの接続状況を含めたセンサーマットの作動の点検実施』となりました。
センサーマットは利用者の動きを感知し、警告としてワーカー室の監視機器に警告音を発したり、ランプの点滅が確実に作動することが求められます。この状況が常に維持されているための点検実施と、点検の基準の設定が対策として取られました。
①週に一度の頻度で
②センサーマットの置かれ方
③電源コードの接続状況
④センサーマットに足を置き、ワーカー室の警告音とランプ点滅の確認
⑤①から④の記録
が対策として行われました。更に、3か月間で効果確認をしたところ、清掃でベッドを動かした際に抜いた電源コードのプラグが元通りに差し込まれていない状況が点検で発見されたため、清掃でセンサーマットの位置がずれる可能性があることや、プラグの差し忘れが心配されることから、ベッド下の清掃後にも実施することに改められました。このように事故の対策が組織の仕事として定着し、継続的に改善される仕組みこそが大切です。
5.データの分析
事故に対して取られた対策は効果があったのか、無かったのか、何には効果があって、何には効果が薄かったのか、等の検証がなされないと対策の見直しや新たな対策に向かっての改善が「見当的」「場当たり的」になってしまいます。
そこで、予め“どういった検証をするために”、“どのようなデータをとる”ということを計画してデータを収集し、目的に向かった分析をすることが大切です。
特に、個別の事故事案に対しての対策ではなく、事故発生の一定の傾向がデータ把握されたものに対して取られた対策は、対策実施前のデータが対策によって如何に変化したかを比較分析することで、対策を評価することができます。
介護事故ではありませんが、例えば、次のような事例があります。
| 問題 | デイサービスの月曜日の迎え間違いが多い(休みの利用者を迎えに行ってしまうなど) |
|---|---|
| 原因 | デイサービス担当者が不在の前日または前々日の土日に、デイサービス担当者以外の職員が受付けた休みの連絡の伝達漏れ |
| 対策 | 月曜朝礼時に土日の日誌を読み上げて、休みの連絡の有無を確認する |
問題、原因ともにデータで事前に把握されており、対策はそれに基づいて策定されていますので、結果もデータで検証されなければなりません。曜日別の迎え誤りは月曜日が他の曜日に比べて減少しているのかどうか、もし今までと変わらない状態やむしろ増加している、または他の曜日の増減と比較して対策を講じたこととの効果が見られないとしたら、原因が違っていたか、原因に対しての対策が当を得ていないという見直しをしなければなません。
このように介護事故の防止対策が、組織の仕事の中に定着し、継続的に改善されていくためにはマネジメントシステムとして「計画(収集データ項目と分析方法の計画)」「実行(データ収集の実施)」「評価(データ分析)」「見直し」のステップを踏むことです。
6.監視の方法
リスク対策の効果の把握や継続的改善のために、対策実行の適切な段階で実施の監視をする必要があります。また、効果の把握や継続的改善のためだけではなく、取られた対策が次工程や他の業務に支障をきたしていたり、対策自体が誤って行われていたりすることに対しても監視が必要です。こうした対策自体に問題を含んでいたり、問題が現れたりした場合に、その問題を取り除いたり、問題から起こりうる影響に対して適切な処置をとらないと、事故の再発や別の事故を引き起こすことを防がなくてはなりません。
そこで対策が目的を満たしたものであるかを、一定の監視基準によって監視またはデータ的なチェックをする仕組みが必要になります。監視の方法は対策内容によって異なりますが、誤嚥防止のために特定の食材の調理方法を変更したようなケースでは、とろみのつけ方、キザミのサイズなどが監視の対象になり、これを利用者が食する前の適切な段階でチェックするなどが一つの例になります。他にも転倒予防にセンサーマットの使用を対策として取り入れた場合に、センサーマットが目的に沿って作動することの点検を定期的に行うなども対策実施段階の監視方法に当たります。
7.監視の結果の不具合への対処と再発防止
監視で検出された不具合は取られた対策が有効に機能しないことや新たなリスクを生むことにもつながるため、次のような処置をとらなければなりません。
- そのまま実施が続くことのないように中止または中断する
- 不具合を取り除くよう修正する
- 実施されてしまった場合には、不具合によって引き起こされたまたは今後引き起こすと思われる影響を最小限にするように処置する
上記「6.監視の方法」で取り上げた例の、“誤嚥防止のための調理方法”でキザミやトロミが予定されたものでないことが発見された場合は、誤って利用者に提供されないよう区別し、廃棄するなどするか、キザミやトロミの状態を本来の状態に修正して提供することを確実に実行しなければなりません。転倒予防のセンサーマットの場合も、もし点検で不具合が見つかった場合は、そのまま使用することのないよう、不具合であることを張り紙するなどして分かるようにし、ただちに交換または調整修理する処置をとらなければなりません。
更に、このような不具合が再発しないよう、なぜ、キザミやトロミが予定通りの状況で作成されなかったのかの原因を特定し、必要な処置をとり、更にその処置が有効であるかのフォローをすることが必要です。
目次
介護事故と苦情をマネジメントする(第2回)
- 対策立案の考え方
- リスク対策とマネジメントシステム①
- リスク対策とマネジメントシステム②
- リスク対策とマネジメントシステム③
- 対策立案